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【勝たせるAIをつくる】――2WINSと描く、地域を活性化する産業DXの最短ルート
「AIで世界は変わる」と言われて久しい。しかし、地方の現場に行けば、いまだにFAXが飛び交い、膨大な伝票を目視で確認し、手入力する業務が残っている。 技術はある。ニーズもある。しかし、その間をつなぐ「橋渡し」が、日本の産業にはまだ欠けている。
今回、AppBankグループがパートナーとして協業を開始したのは、AIスタートアップ「2WINS(ツインズ)」。彼らは象牙の塔にこもる研究者ではない。ビジネスの現場に入り込み、アカデミアの知見を「勝てる武器」に変えるプロフェッショナル集団だ。
AIを単なるブームで終わらせず、いかにして収益を生む「産業インフラ」へと昇華させるのか。 2WINS代表の小川氏、PLANA代表の三好氏、そしてAppBank代表の白石が、広告業界の「アナログ」打破から農業の構造改革に至るまで、Team AppBankが仕掛けるAI戦略の一端を語る。
① 東大・松尾研発のスタートアップ・2WINSの流儀
白石(AppBank)
まずは、今回パートナーとして新たに参画いただいた2WINS(ツインズ)さんについて、改めて小川さんからご紹介いただけますか?
小川(2WINS)
私たちは、東京大学大学院の情報理工学系研究科のメンバーを中心に創業したAIスタートアップです。 創業当初は独自のチームでしたが、実績を重ねる中で松尾教授の研究室(松尾研)が主催する講座「GCI(グローバル消費インテリジェンス寄付講座)」に関わるようになり、創業4年目にして「松尾研発スタートアップ」として認定いただきました。
白石
最初から松尾研発だったわけではなく、実力を示して後から合流したというのは面白い経緯ですね。
小川
そうですね。メンバーは研究者気質の人間が多いですが、私たちが目指しているのは、研究室の中で論文を書くことではありません。研究で得た最先端の技術を、いかに社会で認められる「付加価値」に転換するか。ここに情熱を注いでいます。 私たちは「勝たせるAI」を事業運営の軸に掲げています。 これは単にクライアントの収益を上げるという意味だけではありません。パートナー企業が勝つことで、その背後にある「業界全体が深化する」ことまでを見据えて、ビジネス実装を進めることを意味します。
白石
業界全体を深化させる。非常に重みのある言葉ですね。
小川
はい。特定の一社だけが効率化しても、社会変革は限定的なものになってしまいます。私たちが描きたいのは、パートナー企業を起点に、はじめはスモールスタートかもしれませんが、その後徐々に仕組みが波及していくことで、その業界全体の構造がアップデートされる「勝たせるAI」そのものを構築していくことにあります。そのために、僕らの技術を使いたいんです。
② 「受託」ではない。「クラウド型AI事業部」として組織に入る
白石
その壮大な「勝たせるAI」を描くための手段として、今回の提携では「クラウド型AI事業部」という形式をとっています。これは一般的な受託開発とは何が違うのでしょうか?
小川
最大の違いは、クライアントの組織図の中に「AI事業部」のような立場で入り込む点です。 通常、システム開発は要件定義から契約までに時間がかかりますが、私たちは1年間など一定期間の間、チームとして伴走します。
例えば、製造業プラットフォームを手掛けるとあるクライアント様のケースで言えば、1年半ほど初期開発、スモールスタート、アジャイル開発を伴走し、すでに6本ものAI機能を開発・運用しています。一つ作って終わりではなく、常に隣にいて、現場のフィードバックを受けながら次々と新しい価値を生み出し続けるスタイルです。
AppBankが2025年12月18日に出したリリース(https://data.swcms.net/file/appbank/ir/news/auto_20251218522164/pdfFile.pdf)にもありますが、これまで開示していた内容に加え、新たに農業系、事業会社のミドルオフィス業務・事務業務系、教育機関系及び広告代理店系といった他分野で、AppBankとAIソリューションの共同開発を進めていければと思います。
三好(PLANA)
この体制だからこそ、PLANAの主力領域である広告業界や地方放送局が抱える課題にも、即座に着手できました。 地方の広告代理店や広告出稿者、テレビ局では、現場担当者同士がアナログでやり取りしたり、出稿内容を確認したりといった効率化余地の大きな業務が多くあります。AIでクリエイティブな仕事がなくなると言われますが、現実はもっと手前の「事務作業」で詰まっている。 そこで小川さんたちと検証を進める中で、現場の業務フローを一変させる「ある技術」にたどり着きました。
③ OCRを超えた思想。「SCR」が現場を変える
白石
広告業界のアナログな壁を突破するその技術、非常に気になります。一体どのようなアプローチだったのでしょうか?
小川
私たちが実装したのは、「SCR(Semantic Character Recognition:意味・文脈を理解する文字認識)」という技術です。
白石
SCR……聞き慣れない言葉ですが、光学的文字認識のOCRとは何が違うのですか?
小川
従来のOCRは、読み取るデータの情報構造・フォーマットを人間が一つひとつ定義する必要がありました。どのような情報集合がある画像なのかを、種類ごとにある程度の構造を人間側から教え込まないと適切な処理が難しかったんです。ただ、広告枠の管理1つをとっても多様な形式やクリエイティブがあるので、人間がやるように、検収して課題を洗い出すことは、非現実的でした。
だからこそ、発想を変えました。SCRは、広告枠の管理フォーマットや何が落とし込まれているかを事前に与えるのではなく、その意味付け自体からAIが理解します。 初めて見る情報構・フォーマットの広告クリエイティブでも、AIが文脈を読んで判断し、自力でデータを抽出する。人間がルールを教える手間を飛ばして、いきなりAIが実務に入っていけるんです。
三好
これが革命的でした。PLANA社内で検証したところ、これまで人間が手入力していた作業が、およそ10分の1のリソースで済む見込みが立ちました。 しかも、開発スピードが驚くほど速い。現場からのフィードバックを即座に反映し、当初のロードマップを前倒しで進められるほど、実用性が高いことが証明されました。
④ 「逆算」で勝つ。SCRが持つ無限のスケーラビリティ
白石
このSCRの凄さは、広告業界に留まらない「汎用性」にありますよね。
小川
その通りです。SCRは「不定形なドキュメントから、必要な情報を意味ベースで抽出する」という技術なので、題材を変えれば無限に応用可能です。 ただ、技術的に優れているだけではビジネスになりません。今回はAppBankやPLANAという「業界のペイン」を知っているパートナーがいる。「どこに売れば確実にハマるか」という出口から逆算して、この汎用的なSCR技術をパッケージ化して提供できる。これは最短ルートで価値を生む「勝利の方程式」だと言えます。
三好
広告関連のAIソリューションについては、まずはPLANAやAppBankの子会社となったPWANのネットワークを使って地方のテレビ局や広告代理店に展開し、業界全体の生産性を底上げする「武器」として提供していきます。我々が「売り場」を開拓し、2WINSが「武器(SCR)」を供給する。このサイクルを回していきます。
⑤ 「農家」を「産業」に変える ― 熟練の頭脳をデジタル化する
白石
この「AIに意味や文脈を理解させる」というSCRのアプローチは、実は私たちが進めようとしている農業プロジェクトにも通じています。 日本の農業、特にお米の生産現場は、生産者の高齢化により、この10年で担い手が半減すると言われています。これまで現場の「勘と経験」に頼っていたノウハウが、継承されずに消えようとしている。
小川
農業は変数が非常に多い産業です。天候、相場、土壌の状態。これらを熟練の生産者やコンサルタントは、長年の経験に基づく「暗黙知」で処理しています。 今回の農業プロジェクトでは、業界のトップコンサルタントが持つ高度な経営判断ロジック――「どの品種を植えるか」「いつ売るのが最も利益が出るか」といった頭の中にある知見をAI化し、エージェントとして再現しようとしています。
白石
SCRが「広告クリエイティブの意味」を理解するなら、農業AIは「農業経営の文脈」を理解する。 これまでは「農家」という個人のスキルに依存していましたが、それをAIによってスケーラブルな「技術」へと昇華させ、農業を一つの「産業」として自立させる。この構造改革こそが、Team AppBankのAI戦略の根幹です。
⑥ 産業DXのプラットフォーマーへ
白石
「SCR」という強力なコア技術と、それをスピーディに展開する「クラウド型AI事業部」というビジネスモデル。 2WINSとの提携により、AppBankグループは単なるコンテンツ企業から、産業構造そのものをハックする「ソリューション・カンパニー」へと進化する準備が整いました。
小川
僕らの技術は、使われて初めて価値になります。PLANAさんやAppBankさんと組むことで、まずはPLANAさんを勝たせ、その先にいる業界のステークホルダー全員を勝たせる。その「勝たせるAI」を一緒に実現できることにワクワクしています。
三好
まずは広告業界の紙をなくし、農業の知能を継承する。そこで得た勝ち筋を、次はまた別のレガシー産業へ展開していく。
白石
点ではなく面で、日本の産業を「勝たせる」。 Team AppBankが仕掛ける、次世代のAI戦略。これからの展開に、ぜひご期待ください。
